この日訪れた蔵のひとつ『寿福酒造』。明治23年(1890年)創業のこちらの蔵は,田町菅原天満宮の真向かいに佇んでおり、球磨の豊かな水と山々に囲まれて、その土地の神様、そしてその土地の人々と共にその歴史を歩んできました。
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私たちが到着すると豪快な女性の笑い声、一際大きな体格の男性の姿が。寿福酒造の社長であり四代目杜氏の絹子さんと、五代目現杜氏の吉松良太さんです。
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囲炉裏を囲んで談笑した後、早速蔵の中を良太さんに案内していただく運びとなりました。
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その壱‥【麹造りが焼酎造りの鍵を握る】
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使用するお米は新米で地元のもの。蒸してそのまま食べても美味しいものを使うそうです。ただ古米やタイ米などに比べて蒸したお米に粘り気があるため、麹菌を満遍なくつける種付けは,蔵のクセを読みながらの作業となります。
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ここ麹室での作業は精神力と体力を80%以上削られるとのことなので、まさに精神と時の部屋。文字では伝わりにくいですが,マジできついそうです。しかしここで失敗をすると挽回は厳しいので、長年の経験により得られた『感覚』と『熟練された技』を最大限にフル稼働させます。
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その弐‥【掃除に始まり掃除に終わる】
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蒸留後、蒸留釜の隅から隅までピカピカに掃除をするとのこと。清潔な環境でじっくり手間暇かけてやることが良い焼酎造りの大前提だそうです。掃除に始まり掃除に終わる、さまざまな分野のプロに共通していることなのかもしれません。
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その参‥【一生懸命造って、飲み手に美味しいと言ってもらえること】
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寿福酒造の焼酎は、造り手の誇りと魂を注ぎ込んだ手造り焼酎の逸品。『一杯飲んでもういいや』ではなく、『一杯飲んで、もう一杯飲みたい』を体現しています。
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良太さん曰く、『飲んだ時に素材のしっかりしたコクや味わいがありつつ,スッキリした後口。これが美味い焼酎』
水害や地震,そしてコロナという様々な苦境に立たされた時,飲み手の『美味しい』という言葉を原動力にして乗り越えられてきたそうです。自分が全身全霊頑張らないと,この『美味しい』という言葉を素直には受け止めることができない。だからこそ一生懸命造って最高のものを提供する。この信念のもと日々焼酎造りと向き合っています。
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その四‥【造り手が愉しく飲む姿を見せる】
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近年、若い世代のお酒離れが話題になることが多いですが、実はこのお酒離れというのは若者に限った話ではないようです。総務省の家計調査では40代や50代もお酒離れしている傾向にあるとのこと。
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私も日々、どのようにしたらお酒の魅力をより多くの人に伝えることができるのかを考えているのですが、造り手の方はその点をどのように考えているのか気になったので実際に聞いてみました。
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『我々が愉しく飲む姿を見せることですね』
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お酒は飲むシュチュエーションで味が変わる。精神的にツラい時のお酒の味はやはり辛くなる。そういうお酒もあってもいいと思いますが,気の合う仲間・恋人・家族等、愉しく飲むお酒はどんなお酒でもやっぱり美味しい。そういった意味ではお酒の提案はもちろん,愉しく飲むそのシュチュエーションを提案するのも私たち売り手の役割なのかなと個人的には思いました。
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力強くも温かく包み込んでくれる、そんな寿福酒造の焼酎。今宵の一杯にぜひいかがですか。