澄川酒造場に続いて訪れたのはレトロな街並みの中に佇む阿武の鶴(あぶのつる)酒造。
蔵の裏手にあるという駐車場を探してしばし彷徨っていた僕らを案内してくれたは、笑顔が素敵な爽やかなお兄さんといった感じの三好隆太郎さん、1983年から33年間閉鎖していた蔵を復活させた阿武の鶴酒造の6代目です。
前職で内装の設計をしていたという三好さんは「もう少し人に近い仕事がしたい」ということで、ハローワークで千葉の酒作りの仕事を見つけそこから酒造りのキャリアが始まったそうです。個人的にとても意外だったんですが、酒造りの仕事はハローワークなどで普通に募集があったそうで、そこから埼玉、岐阜、青森と様々な土地の酒蔵で酒造りを経験して山口に戻ってきたとのこと。
初めは「ここで出来るとは全然思ってませんでした」と語る三好さんは、山口に帰ってきて県内の酒造りの先輩方と話していくうちにジワジワと「実家の酒蔵を復活させたい!」という気持ちが盛り上がってきたそう。
実家の蔵に戻ってきて最初の仕事は、巨大な物置と化していた蔵を少しずつ片付けながら”メイキングザロード”していくことだったそうで、現在は先代からの設備でまだ利用できるものは再利用し、新しく導入した冷蔵庫、先輩方から譲り受けたという設備でお酒を醸しています。
三好さんのお酒のコンセプトは「そばにあったら嬉しいお酒」。
僕らが試飲させて頂いた出来立ての「三好ホワイト」はフレッシュで優しい旨味が広がるお酒。甘味と酸味のバランスを大事にしているそうです。またホワイトなど三好さんの醸す生酒は、フレッシュさを保つため空気になるべく触れさせないようポンプを使わず搾るそう。
とどろき酒店スタッフのノブさんが「どんな料理と合わせるイメージでお酒を造っているんですか?」という質問に対して、「ホワイトとグリーン、特にホワイトはタイ料理をイメージしてます。ハーブ・香草なんかに合うようにですかね。わさびはいけるんですよ。」とニコニコした笑顔で答えてくれました。
「お酒は毎年少しづつ微調整をしている」という三好さんは、今年の3月頃から山田錦に加えて雄町でお酒を醸す予定だそうです。また麹は現在東洋美人でつくっていますが、「今季の作りが終わったらこの上にムロ(麹室=麹をつくる部屋)を作ります!」と二階に上がる階段を指さしてくれました。
雄町・新しいムロで醸される三好はどんな味になるんだろうと期待してしまいます。
見学を終えた後の懇親会(兼もちろん飲み会)で、「仕事のやり方は内装の設計の時と今のお酒造りとでは変わりません。ただお酒造りにはマイナスが効かない面白さがありますね。」と話してくれました。また、「三好さんのとこくらいの規模の酒蔵さんって山口に結構あるんですか?」と個人的に聞いてみたところ、「同じくらいの規模の蔵はあると思いますが、設備はうちの酒蔵が県内最弱なんじゃないかと思います、どうもすいません(笑)」と笑いながら答えてくれましたが、その飲み会の席で澄川さんが「同業者はライバルじゃなくて戦友」と言っていたように、酒造り諸先輩方は、三好さんの明るく謙虚で裏表の無い人柄に惹かれ、皆が酒蔵復活に向けて力を貸してくれたんだろうな〜と感じました。
酒造りの魅力的な場面を少し垣間見れたような気がしてほっこりとした気持ちになれた阿武の鶴酒造見学でした。