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Sachiko Tejima

Mika Tanaka

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Kano Nakashima

選んだワインと料理 答え合わせの宴 in 浅草

10月秋晴れのある日、ボス(轟木)といっしょに浅草のテジ家を訪ねた。
博多から送ったワインは、ひと足先に到着しているはず。
きんぴらと白、煮込みと赤、の相性はいかに!?
みんなであーだこーだ言いながら、おいしく、発見あり、の答え合わせの時間。
まずは、ごぼうとにんじんのきんぴらに白ワイン2本を合わせてみる。
きんぴらワインに決定したピエール・フリックのピノブランともう1本、
ピエール・オリヴィエ・ボノムのソーヴィニヨンブラン。
田中
スタッフと試作試飲したときに、「柑橘を搾ったきんぴらにソーヴィニヨン・ブランがめちゃくちゃ合う!」
という意見が出たので、今回持ってきてみました。
手島
このソーヴィニヨンブランは、いわゆるソーヴィニヨンブランっぽくない感じがするわね。
轟木
2018年のロワールはあったかい年だったから、いつもより果実の感じがボリューミーで、キャッチーですね。
ただ果実味が出ているだけじゃなくて、酸もしっかりあるから、さすがピエロくん(オリヴィエ・ボノムの愛称)。
手島
ソーヴィニヨン独特の青さがないというか、豊かな感じ。
轟木
うん、白2本、どちらもきんぴらに合いますねえ。特に、柑橘を搾るとピタッとくる印象。
この塩かぼすおいしい!
手島
かぼすでも柚子でも、柑橘を搾ったものに塩を加えるだけで、2週間くらい冷蔵庫で持つんですよ。
そのまま置いておくと乾燥していくし、果汁だけだと日持ちしないから、塩 + 柑橘の果汁は使えるのよ。
田中
それはいいこと聞いた!
この季節、各地の蔵元さんから柑橘類がたくさんい届くから作ろ!
家に柑橘があると安心なんですよね。
料理にちょっと搾るとワインに近づいてくれるし。
フリックはやっぱり温度上げめがいいですね。
轟木
最初きんぴらって聞いた時、甘い味つけのイメージがあったので、
フリックのぶどうの甘みがいいのかなと思ったんだけど、手島さんのきんぴらは甘くない。
そうすると、常温に近い温度にして果実感が穏やかになるほうが、するするっと合うね。
手島
このきんぴらは出汁がポイントなんだけど、送っていただいたピエール・フリックと
合わせたら出汁によく響いたから、おひたしも作ってみたの。
野菜に火を通して、薄口醤油と塩で味をつけた水出汁に浸すだけのシンプルなおひたし。
浸し汁は、野菜といっしょに飲めるくらいの塩加減で。
田中
確かに、いい!
そしてワインはやっぱり常温がいいですね。
これにも塩かぼすかけたい!
手島
このワインは酸味と甘さと旨みのバランスがいいよね。
和食にも合うし、なんとなくミネラルも感じる。
テジ家好み。
轟木
ミネラルっていろんな感じ方があるから難しいんだけど、
鉱物的なニュアンスがあると、魚介ともおいしく合わせられますね。
例えばジュラ地方の白なんかは、お寿司ともいける。
手島
あ、そうだ。食後に合わせてみたあれもおいしかったんだ。
ちょっと待ってね。
しばし台所に立つ幸子さん
手島
10年熟成のブリーチーズと、梨とくるみ。
今日はいちじくもあったから、いっしょに試してみて。
田中
えー!! おいしい!!
手島
うん。おいしいでしょ?
3つのどれにも響いて、口の中で秋が広がるよね。
田中
これをデザートにするなら、フリックをもっと冷やしてもいいかも。
私はいちぢくが好き!
いよいよメイン、豚肉のポルチーニ風味煮込みの登場!
ポルチーニの香りと一緒に運ばれてくるスペアリブときのこもりもりの姿に、
一気にテーブルのテンションが上がる。
すかさず赤2本と合わせてみる。
田中
私が作ったものより、ポルチーニの風味がやさしい。
ちょっと私のは強すぎたかな?
轟木
あれはあれで滋味深い感じだったよ。
田中
でも、風味がやさしいほうがたくさん食べられそう(笑)。
手島
美佳ちゃんが選んでくれていたこの赤(ダール・エ・リボ セルプランタン)、楽しみにしてたの!
ぶどうの果実味がしっかりしてるね。
ポルチーニの香りと豚肉の旨味と混ざり合って、口の中で秋がより深まる感じ。
轟木
セルプランタンのブラックオリーブみたいな香りがあって、ポルチーニの香りや肉の脂とよく合うね。
田中
煮込みと、この春菊とりんごのサラダの組み合わせ、止まらない!
ちょっとまたフリックの白に戻ったりして。
手島
もう1本の赤はどんなワインなんですか?
轟木
イタリア、シチリアのアリアンナ・オキピンティという女性の生産者の赤です。
イタリア南部のワインというと重いワインのイメージがありますが、
オキピンティはエレガントで爽やかなワインを造ります。
このSP68も、陽気な果実感、勢いがあっていいですね。
ただ、この煮込みの落ち着いた雰囲気に、この若々しさはちょっと違うかな。
手島
美佳ちゃんが博多から持ってきてくれた柚子こしょうもつけてみようっと。
きのこベースのシンプルな味の煮込みだから、柚子こしょうの香りとピリッとした感じにも
合うんじゃないかと思ってたんだけど、やっぱり合うね~。
柚子の柑橘と辛味が豚肉の旨味の輪郭をクリアーにしてくれる感じ。
赤ワインの果実味と、仕上げに入れたバルサミコ酢にも響くね。
こういう思いがけない出会いがワインと料理の楽しさに繋がるんだよね。
あ〜、実りの秋に乾杯! って感じ!
宴には、幸子さんの夫・啓介さん=通称「テジさん」も参加。
20代のころ、ワイン好きの友人との出会いから「おいしい!」だけじゃだめなんだ(笑)とワインの世界に足を踏み入れ、今に至る。当時、日本ではまだマイナーだったアルザスワインにも刺激を受けてきた。ピエール・フリックも、一時期テジ家の食卓によく上がっていたそう。

「もっとこうした方がワインに合うんじゃない?」というテジさんのリクエストから、新しい料理が生まれることも少なくない。
テジ家の食卓は、幸子さんとテジさんとの掛け合いでできあがっていく。
陽が高いうちからスタートした宴は、8時間が経過。気づけばトータル6本、きれいに空になっていた。
今日のおいしかった料理を反芻しながら、まんぷくほろ酔いの足取りで、夜の浅草寺の境内を歩く。
帰り路まで余韻たっぷりの浅草の宴だった。

秋のテジとどを終えて

春のやりとりとは全く違うタイプのワインが飲みたくなっていることに季節の移り変わりを感じながら、
ごぼうにきのこ、秋の滋味ある食材と向き合った今回のテジとど。

新しく出会い直した気分のきんぴらは、
倍量作って、その日の気分でオイルやスパイスで変化をつけて連日楽しみたい。
煮込みの華やかな香りとスペアリブのボリューム感は、ハレの日、おもてなしにもいい。
さらに、「冷めると煮汁がゼラチン質でぷるんぷるんになるから、持ち運んだりもしやすいのよ」と幸子さんから追加情報。
ってことは、持ち寄りの会なんかにも使える一品になるんだな。

そしてもうすぐ冬がくる。
鍋の季節、魚がおいしい季節、白菜なんかも甘くなってね。
テジ家のテーブルにはどんな料理が上がっているんだろう。
湯気の中でゆったりとした白ワインなんか飲みたいな……。
料理がワインを呼んで、ワインが料理を呼ぶ。
このおいしいやりとりに終わりはなさそう。
次のテジとど便は、どの季節がいいだろう。